建部ロザック
昭和3年6月生。株式会社プルナマインターナショナル代表取締役。訳書等、「スブド」(メルクマール社)、「未来からの贈り物」(八重岳書房)、ほか



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気ままな読書散歩道


「超学校」「超教育」「超育児」
米国の教育改革校の刺激的なレポート


 米国のサドベリー・バレー校の創始者ダニエル・グリーンバーグ氏の本が3冊訳されて一光社から出ている。

 「超学校」「超教育」「超育児」と、センセーショナルな題がつけられていているが、内容も題名に負けないインパクトがある。

 サドベリー・バレー校というのは、コロンビア大学で物理学の博士号を得て大学で教えていたグリーンバーグ氏が、1968年に、自分の子どものために理想的な教育の在り方を徹底的に研究した結果、結局その理想を実現すべく自分で作ってしまった学校で、この3冊の著作はいずれもその報告という意味合いを持っている。

 サドベリー・バレー校は、4才から19才まで子どもを対象にするが、あらゆる意味で現在の日本の教育とは対極的な立場に立っている。

 まず、この学校には決まったカリキュラムも時間割もない。
 年齢や性別によるグループ分けも学年制もない。
 もちろん試験は一切ない。

 すべては子ども自身のイニシアティブに委ねられていて、遊びたければ一日中、何日、何ヶ月も遊んでばかりいてもよい。グリンバーグ氏は、何年間も毎日学校の裏の池でひたすら釣りばかりしていた子どもの例をあげている。

 しかしその子もやがて釣りを卒業して、人間本来の好奇心を他のことに向ける時がくる。また子どもの遊びへの集中は単なる時間の空費ではない。

 そしていったん子どもが、個人でまたは仲間の友達と、何か知りたいとか習いたいとか勉強したいと申し出たら、スタッフと教師は、子どもの願いをかなえるために全力をつくす。子どもが自分から興味を持ち、何かを学ぼうとした場合、子どもは驚くべき集中力を発揮して、ふつうの学校では6年かけて学ぶことをわずか数ヶ月でマスターしてしまう、とグリンバーグ氏は言う。

 これだけでも十分に刺激的だが、日本でも、1999年には13万人に達した不登校児への対応として、今ようやくフリースクールが市民権を得つつあり、そこでは似たような自由教育の試みが始まっていると思うかもしれない。だがサドベリー・バレー校の本当に革命的な“すごさ”は、学校運営における徹底したデモクラテシーにある。

 サドベリー・バレー校では、重要なことはすべて全校集会にかけられるが、そこでは4才の子どもも、18才の子どもも、教師も、その他の学校のスタッフも、すべてが同じ一票の投票権を行使する。教師の任命でさえ、例外ではない。

 「子どもは4歳になるまでに、問題をどう解決したらいいか、どんなふうに決断したらいいか、あるいはそろそろ自分の理解の限界に達したか・・・と、自分なりに判断するセンスを十分、発達させます。」とグリンバーグ氏は言う。

 4歳にして人間の身体、精神は機能的に成熟し、子どもはそこから独自の人生を歩み始める。その後は経験と知識がつけ加わるだけで、分別つまり判断を働かせるプロセス自体は大人と同じである。だから「子どもが4歳前後になったら、他の大人と同様の扱いをすればいい」。

 問題はむしろ、10代の後半になるまで、子どもを1人前の人間とは見なさない近代社会の在り方にある。自立しようとする子どもが、大人によって10代後半まで成熟しないことにさせられ、そう振る舞うように強制され管理されたとき、やがて反抗や鬱積が噴き出す。

 この部分は、極めて刺激的であるだけに、これだけの短い引用ではとうてい受け入れがたいと思われだろうから、氏の著作(この部分のところは特に「超育児」)を読んでいただくほかはないが、氏はやさしい言葉で、十分に説得力をもった主張を展開する。

 またこのような過激な理念を徹底的に追求し実践した学校が、つぶれないで存続しているばかりか、授業料も、公立校の生徒1人あたりの経費以下で、ふつうの私立校の3分の1にすぎないというのも驚きで、学校の経費も予算も、子ども全員が参加する全校集会で審議され決まっていくのだという。

 彼の主張は、冷静な科学者としての眼と、彼の学校がすでに創立後30年たって、社会で活躍中の立派な卒業生を送り出しているという実績の重みにささえられている。そして彼の多くの指摘は、そのまま現代社会が持つ歪みと偏見を鋭くえぐりだし、21世紀の方向を暗示する文明論にもなっている。

 日本では、いじめ、自殺、家庭内暴力、校内暴力、不登校、学級崩壊、異常犯罪と、子ども問題がとめどもなくエスカレートし、政府もようやく重い腰をあげているが、あいかわらずその場しのぎの対処療法を模索しているように見える。日本の現状にサドベリー・バレー校をすぐそのまま持ってくることは難しいにしても、訳者があとがきで言っているように、中教審の方々はぜひ1度サドベリー・バレー校を見学した上で、教育を考えてもらいたい気がする。

 サドベリー・バレー校は、今や学校改革の世界的なモデル校になっていると訳者の大沼安史氏は言う。グリーンバーグ氏夫妻は、1999年4月に招かれて来日し、全国各地の7カ所で講演会を行った。私は上智大学で行われた講演会を聞きに行ったが、会場の大教室は熱気に満ち階段や通路まで人がぎっしりの盛況だった。

 大沼氏のホームページ教育改革情報<http://www.umlaut.co.jp/onuma/>は、グリーンバーグ氏の日本訪問記その他のサドベリー・バレー校情報を掲載している。


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