林サオダ
翻訳家、日本ホリスティック医学協会理事、バッチフラワー認定講師。訳書に「がんのセルフヒーリング」(創元社)、「バッチの花療法」、「心を癒すアロマテラピー」、「リフレクソロジー」、「エキナセア」(フレグランスジャーナル社)ほか



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遊び心のうらおもて


●食の巻

 もともと食いしん坊で好奇心の強い私なので、たべものにまつわる思い出には事欠かない。どの国へ行っても、必ず市場に出かける。なんてったって、市民の胃袋が分かる。「この国のエネルギーの素がこれか」と妙に感心したりすることがある。おびただしい種類のオリーブの山盛りの籠が並んだギリシャの市場や、テレビや映画で見ただけでは体験できない、複雑な臭気が漂うインドや東南アジアの市場。何にも買わなくても、食材を吟味している人々と商人のやりとりを見ているだけでも面白い。食べ物を介して人と出会い、食卓を囲んで交流を深め、人間は仲良くなる。私がこれまで食べたものの中から、独断と偏見で選んだ味を紹介しよう。

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 インドネシアのカリマンタン(ボルネオ)はパランカラヤの郷土料理で、赤いたれをつけて食べる海老と川魚の料理がお薦め。素朴な狭い店に着いたら、まず入り口で自分の食べたい魚や海老を選び、それから店内に入る。色はタンドリーチキンのたれに似ているが甘辛い味の、独特なうまみのたれをつけながら、おやじさんが焼いてくれるのを待つ。日本の鰻や焼き鳥のように匂いに引き寄せられてしまう。これに野菜とご飯とスープを頼む。大ぶりな海老や白身の魚のうまさを引き出す独特なたれに魅せられて、これまで数回食べにいった。
 インドネシアではもうひとつ、ジャカルタのスンダ料理(スマトラ地方の料理)専門店で食べた、魚のスープ。香草が入っていて、くどくなくて美味しい。白身の魚だが、なんと言う名前かは忘れた。インドネシア料理のスープは、もっとこってりした感じのものも多いが、これは私の口にことのほか合った。

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 インドのマドラス(現チェンナイ)のレストランで食べた、コフタというベジタリアン料理。三角の山形になっていて、ソースがかかっている。マドラスに2度目に行ったときにも、同じレストランに行って食べた。豆や野菜をすりつぶして作っているらしいが、複雑なスパイスがよく分からない。インド料理だとベジタリアンでもちっとも退屈しないですむのは、本当に変化に富んだメニューが揃っているからだ。日本でも、いろいろなインド料理屋に行っているのだが、まだあの「幻のコフタ」は見つけられない。
 それから、ニューデリーで泊まった家の奥さんが作ってくれたいんげん豆(キドニービーンズ)のカレー。手伝いながら、奥さんにへばりついていて、じっと見ていたが、圧力釜で炊いた豆はふっくらと柔らかく、香辛料の匂いが食欲をそそるヘルシー料理。何度もおかわりして、笑われた。自分で作って見たが、あの味には遠く、まだ再現不能である。

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 イギリスのジャケットポテト。オーブンで焼いた皮付きジャガイモの上に各種ソースをかけるもの。ジャガイモが日本にない種類なのか、大きなサイズで中は黄色ぽくて抜群においしい。イギリスに行くと必ず食べることにしている。昔は家庭料理だったが、今はジャケットポテトの専門店もある。飲み物を添えると、立派な昼食になる。北海道のじゃがバターも美味しいが、今のところじゃがいも料理としては、最も気にいっている。
 イギリスではもうひとつ、ブリストルがんヘルプセンターでの研修中、毎朝食べたヘルシーな玄米がゆの味も忘れられない。玄米と豆乳を入れて一晩、陶製の電気釜でコトコト煮たおかゆのようなオートミールのようなしろもので、これがやたら美味しかった。同センターは病院でもホスピスでもなく、患者ががんとのホリスティックな取り組み方を学べる滞在型施設で、医師、看護婦、セラピスト、栄養学者、ホメオパシー療法家などが指導にあたっている。食事は、ジェーン・センという女性シェフが作るヘルシーなベジタリアン料理である。彼女の作る料理は素晴らしい。免疫力が低下したがん患者によい食事は、健康な人にももちろん有効である。ブロッコリーをチーズおろしでおろしてサラダのドレッシングにいれるなどの工夫もある。海草も使っていて、彼女は海苔やひじきをよく知っていて驚いた。

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 ギリシャのサラダはシンプルだ。トマトとヤギのチーズときゅうりにオリーブとオリーブオイル。ギリシャからチーズを持ち帰って日本でも作ってみたが、やっぱり青い海を見ながら食べた味にはならず、がっかり。ウーゾやレッチーナ(松脂の香りのワイン)を飲みながら、カラマリ(いかのリングフライ)やムサカを食べる。夜は浜辺のレストランで、月の光を浴びてゆっくり食事をしたら、いつとはなしにギリシャの民族音楽に合わせて輪になって踊る。
 もちろん、イセエビや魚料理も美味しい。モーターボートをチャーターして無人島へ数人で繰り出したとき、ボートの船長が潜ってウニをとってきた。そのウニの身を、ちぎったフランスパンの上にのせて私達に配ってくれた。こんな新鮮で大きくて美味しいウニは、やっぱウニ丼でしょ。「銀シャリと海苔と醤油と三つ葉ほしいーっ!」という声にならない私の叫びが、虚しくエーゲ海にこだました。

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 ノルウェーの最北の漁村で泊まった家のご主人は、魚の加工工場の工場長で、彼が選んでくれたスモークサーモンは、この世のものとは思われぬ美味しさだった。色も艶も綺麗なサーモンピンク(当たり前か)で、スモークが強すぎず、とろけるような質感と甘さのある味。彼の家は肉料理は奥さんが料理し、魚料理は彼がする。
 ハリバット(オヒョウ)という白身の魚のステーキも、とても美味しかった。「これってどんな魚?」と聞いたら、主人は魚類図鑑を持ち出してきた。そこにはヒラメかカレイを馬鹿でかくしたような魚があった。「ああ、それで切り身になっていたのか」と納得。日本で食べるヒラメのムニエルみたいに上品な身じゃなくて、もっとぶ厚い切り身を料理する。味は最高だった。
 トナカイのシチューも出た。当時8歳と5歳のわが娘は、生きているトナカイを見るのは、生まれて初めてだった。野生のトナカイがすぐそばまで来る家に泊まれて、喜んでいたあとだったので、トナカイと聞いた途端に、二人は顔を見合わせて涙ぐみ、シチューに口をつけなかった。
 白夜の北極圏は真夜中でも、外は真昼のような明るさで、子供たちが遊んでいた。木苺のような、その季節にしか食べられないという果物も、甘酸っぱく美味しかった。6月だというのに、ヨーロッパの最北端と言われる北岬(ノースケープ)では、雪が降った。
 2度目に北岬に行ったときには、シャンペンを飲みながら白夜を見た。

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 ベトナムのホーチミンの回教寺院の敷地内にあるカレー料理の店。豚肉抜きの料理を食べたいと難題を出したら、イスラム教徒の知人が連れていってくれた。美味しかった。ベトナムの麺料理も美味しかった。仏領だったから、屋台で売っているバゲットのサンドイッチが、かなりレベルの高い美味しさ。24時間で仕立てられるアオザイを着て、友人のバイクの後ろに乗って街を走り抜けてみた。

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 タイ料理のトムヤンクムは世界の3大スープのひとつとして有名だが、今までいちばん美味しかったのは、何とニュージーランドのウェリントンで食べたものだった。私の泊まった家は、別居中で2歳の娘を育てているタイ人の女性のお宅。彼女は娘のために、タイからベビーシッター(ナニー)を連れてきており、このベビーシッターが作ったトムヤンクムが最高に美味しかった。それまでの旅行で肉料理が続いていたので、タイ料理とご飯は、とても嬉しかった。





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