●第5回・新しい経済社会を考える・「起業」という生き方


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新しい経済社会を考える・「起業」という生き方 | 【1】スモールビジネス起業ワークショップ - 【2】未来バンク

「ビジョンを分かち合う仲間と独自の銀行を」――未来バンク

 「あなたの貯蓄は未来を壊していませんか?」

 未来バンクのパンフレットは、そんな問いかけから始まります。私たちは郵貯や銀行預金を、自分のお金を一時的に預けておく金庫のように考えがちですが、そうして預けられたお金は企業への投資に使われ、それが利子を生んでいるのです。

 しかし、私たちは自分たちが預けたお金がどこに投資されているのか、知りません。バブル経済の原因を作った土地投機に預金が使われていても、私たち預金者はチェックすることができないのです。

 未来バンクは、「環境」「福祉」「市民事業」の三つのテーマに限ってお金を融資する、事業組合です。融資先の目的が明らかになっている銀行というわけです。出資者になるのも融資を受けるにも、未来バンクの組合員になることが条件になります。

 出資する側からすれば、その三つのテーマに共感することが前提になるかと思います。というのは、「配当」を求めない形式であり、大きな貸し倒れ起これば元本割れも覚悟するリスクマネーだからです。未来バンクという、ひとつのプールのなかにお金を入れて、互いに貸し合っているだけのことですから。

 中心になって業務を行っている7人の理事たちは、それぞれの自分の仕事を持っていて、未来バンクはボランティアで運営しているそうです。未来バンクはもともとNGO(市民団体)のメンバーの中から生まれたものなので、市民の自主的活動を支援するという姿勢が根本にあるようです。

▼ホームページはこちら

【未来バンク事業組合
http://www.jca.ax.apc.org/npois/mirai/

 
 今回のルポでは、理事長の田中優さんにお話を伺いました。田中さんの本業は市役所職員で、数々のNGOに参加されているそうです。また、環境問題についてご専門に研究されています(坂本龍一さんの『非戦』という本に、執筆者として参加されている方々のおひとりでもあります)。

設立までの道のり

  ――未来バンクを設立されたのはいつですか?

「94年です」

 ――設立の前から何か活動をされていたのですか?

「ええ、NGO活動をずっとしていました。その中で、郵便貯金の問題にぶつかったんです。けっきょく我々が問題にしていた環境破壊の資金源はみんな郵便貯金にあった、と。そのあたりがわかったので、郵便局に預けるのは実に危険だと思うようになった。では、何か他に代わるようなバンクはないだろうか? と調べていったところ、残念ながら日本にはいいバンクがなかった。そしてまた市民バンクについても調べたのですが、それもうまくいってないようでした。それじゃしょうがない、自分たちで設立するか、ということになりまして、NGOの中に金融と環境の研究会を作り、金融のことをせっせと調べた。それと同時に環境問題が(金融と)どうリンクしているのか、と調べていきました。そして、そのグループの中でバンクを設立するとしたらどういうやり方があるか、と検討していきました。銀行マンや証券マンもいましたので、そのメンバーたちと一緒に未来バンクを立ち上げたんです。……社会的責任投資の運動というのがアメリカにあるのをご存知ですか?」

 ――いいえ。
 
「貯蓄に問題があるのなら、それを自分たちでコントロールしていこうという運動なのですが、それに近い形なんです」

 当初は今いる理事会のメンバー、7人のうちの4人で呼びかけたそうです。金融関係者によると、そういうNGOというのはいままでまったくなかったので、興味を持った人が多く集まったそうです。

「でも、実際にやる段階になると、ほとんど消えちゃいましたよ。やはりお金を出してリスクを背負うことですから」

 そして作るにあたって、エコバンクを調べていったが、実はエコロジーに融資ができているのは全体の10%程度だった。というのは、投資先の市場としては小さすぎるから。

「では、残りの90%は何に使われているのかというと、国債を買ってしまっていることが多い。そうするとお金を集めて国にあげているようなものだ、それじゃ意味がないだろう、と。そういうわけで、融資先をエコロジーだけにするのはやめたんです」

たった400万の資金から始めた

 「で、そのときにもうひとつ調べていったのは、グラミーバンクのような、マイクロクレジット運動です。それを日本に導入していくにはどうしたらいかと考えたところ、ただ単に貧しい人にお金を貸すという考え方ではなく、市民が自ら社会を作っていこうとする活動に貸さないとダメだ、と考えまして、環境の次に、市民事業にも融資をしようじゃないか、と。そして福祉も融資の対象にしましょうということで、その3本にしか融資をしない銀行にしました」

 こういう考え方を“キディバンク”――“子供じみた銀行”というそうです。よそからお金を借りてこないで、自分たちで集めたお金を自分たちが借りるだけですから。

「ほんとに子供銀行みたいなものですね。だから当初は周りの人はうまくいきっこないと考えていました。僕らも、すぐつぶれるのかなぁ、と思いながらやっていました。最初はみんなからなんとかかき集めた、たった400万の資金から始めたんです」

 ――へぇ!

「ところがなかなかつぶれないで、現在までに、去年の3月末の時点で3億4千万貸して、貸し倒れはゼロ。いま出資金は1億ちょっと超えたところです」
 
 ――それはスゴイですね。

「ちょうど我々がやり始めた時期が、日本で市民事業が始まろうとする時期だった、ということもあったのでしょう。そのあとに阪神大震災があって、NPOの活動が活発になっていきました。我々はもともと、そういう活動に融資するつもりでしたから」

これはリスクマネーだという了承のもとに

 「去年の3月末の時点で、貸し倒れ引当金(*貸付け利子より充当)が500万くらい貯まっています。ですから、500万ぐらいの債務が焦げついたとしてもカバーできますね」

 未来バンクでは、こういった条件の元に出資者を募っています。

 ●元本は保証しない。元本を割りこむこともある。
 ●配当は出さない予定。


「なぜなら、配当が出るくらい貸し倒れ引当金が貯まるなら、むしろ金利を下げてしまおう、と。金利は限りなくゼロに近づいたほうがいいですから」

 簡単に言えば、損をすることはあるけど、得はしませんよ、と。

「そう言っておかないと出資法違反の問題が出てくる。『私は貯金のつもりで預けた』とか。だから、これはリスクマネーですよと最初に言っておきます」

組合員の意識が高い

 「それでもあえて出してくる人が組合員ですから、組合員の人たちのレベルが極めて高い。組合員の人たちに何か投げかけると、非常に反応がいい。その人たちにいろんなことについて相談したり、こちらから働きかけてやってみたり、ということもよくしています」

 組合員に向かっては年4回、ニュースレターを発行し、環境と金融についての情報を提供しているそうです。組合員と理事会は業務的に直接関わることはありませんが、こういった形のコミュニケーションは取っているようです。

「金利は固定の3%なんですが、とても簡単な考え方で、1%が手数料。事務をまわしていくための諸費用。残り2%は貸し倒れ引当金。100人に貸したら2人が返せなくなるだろうということで」

「その中で、ある組合員――たとえばある映画監督が、『私はこういう映画を作っているんですが、いまお金がなくて完成できない状況にある。みなさんのお金を、私のために、担保に出してくれないか。もし私が返せなくなれば、あなたたちに担保を取られちゃうんだけど、私としては一生懸命返すつもりだ』という、“担保の呼びかけ”をすることがあります。そうすると、うちの組合員の人たちは意識の高い人たちが多いですから、『私の出資金を担保にしていいですよ』という人が毎回1千万円以上出てくるんです。そうなると、我々としては、貸し倒れリスクがないんですよ。万が一その監督が返せなくなったら出資金から出せばいいということになるので」
 
「となると、さっき言った3%の金利のうち、2%はいらなくなりますよね。ですからそういうときには1%の金利で貸してあげるんです」


 そういう面では、組合員の人たちに助けられている。組合員中心のバンクなんです、とおっしゃっていました。

 

貸し倒れゼロ? ほんと?

 ――貸し倒れが起こっていない、とおっしゃいましたが、何か秘訣が……?

「まぁ、ヘンなところに貸していないということが大きいんですが、目的が環境・市民事業・福祉と3つしかなく明瞭であることと、返済の可能性をかなり丁寧にチェックすることです。でも、返済の可能性は高いけど、この事業は見通しがないなぁ、というときが一番悩みます。返済の可能性と事業の見通しをにらみながら融資をしていく、という形です」

 ――これは貸せないな、というパターンはありますか? どういう基準で融資を決めているのですか?

「我々のところは、できるだけマスコミに載らないようにしているんです。というのは、マスコミに載ると、とたんに『金を貸して欲しい』という連絡が殺到するんですよ。その9割が、単に金に困っている、というだけで、我々が目指している市民社会を目指す、という考え方ではないので、大半はお断りしています。一度NHKに出たときはほとんどそれでした。その頃つかまったKKC(経済革命クラブ)という詐欺団体まで来ましたよ(笑)」

 ――それは言語道断ということで(笑)。判断するのに微妙なところは?

「目的が(未来バンクと)合うことが重要ですが、返済の見通しが立たないのがいちばん微妙ですかね」

 ――返済の見通しを判断するのはどうやって?

「理事会には証券マン、銀行マンなどがいますから、いつも決算書を見ます。我々の目から見ると、いろいろ誤魔化してあるな、と見えてくるものがありますので……」

 ――初めての事業については判断が難しいのでは?

「その場合はその人本人に返す能力があるかどうか、ということを見ますね。未来バンクは必ず人的保証(連帯保証人)を取りますから。なぜかというと、返済に対する一番の抑止力は、その人がいちばん信頼している人を裏切りたくない、という気持ちなんですね。だからいちばん裏切りたくない人を担保に取っちゃうんです」

 ――はぁ、なるほど。

「事業の見通しがあまりにも甘い、というのも非常によくあります。そういうときには、残念ながら今回は……ということでお断りしています」

 ――物的な担保を取るということはありますか?

「物的担保は取りません」

 ――融資の申し込みをするのは、まず組合員になってから、ということですか?

「そうです。しかし先程も言ったように、組合はリスクマネーですから、融資の申し込みがあったときには、組合員になるのはちょっと待ってください、と言います。先に面接をしましょう、ということで、理事が複数で会いに行きます」

 そうして会いに行った理事が複数で話し合いをし、この人は信用できるだろうか? と論議する。融資の審査は本当に慎重なようです。

「実際問題、“人柄”がやっぱりいちばん重要ですね。たとえば、自分の会社がつぶれちゃった場合、お金を借りていた先ぜんぶに返さないこともありますが、だいたい、自分の一番信頼しているところだけには返していたりするもんなんですよ。その関係に自分たちのところがなるかならないかってところが重要ですね」

成長のスピードが、国内での市民事業の成長と一致した

  ――うまくいった理由は何だと思われますか?

「まず、成長のスピードが、国内での市民事業の成長と一致したということ。だから、いまでもそうですけど、金は足りなくならないんですが、毎年スレスレのところまで貸し出しは伸びるんです。資金の集まり具合と融資先が、ちょうどパラレルに動いてるんです。ということは、世の中の動きと一致しているんだと」

「あともうひとつは、当初はそんなにお金があったわけではありませんでしたから、狙ったのは“つなぎ融資”の需要だったんです。つまり、市民が行政から事業を請負ったりして、来年の3月末までお金が下りない、というときのつなぎ融資のニーズです。そういうような、非常に短い、短期間の融資なら、たった400万でもコロコロ回していける、と。で、ちょうど(行政から)太陽光発電の設置助成金というのが出ることになりまして、それは設置から3ヶ月後に出るんですよ。ですからみんなお金を用意してつけるんですが、半分は3ヶ月後に出る。その3ヶ月の間、未来バンクが融資していたりしたわけです」


先人がいない・パイオニアとして

「我々のやり方は先住者ゼロなんです。理事会の者はみんな自分の仕事を持っていながらやっていまして、未来バンクの仕事はほとんどぜんぶインターネットでするんです。いま理事は7人いるのですが、理事だけのメーリングリストの中に情報をどんどん放りこんで、それをみんなが読み、毎日のように論議しながらやっている。会計処理もエクセルで全部作って、そのメーリングリストにエクセルのグラフごと投げ込んじゃって、それを全員でチェックしながらやっているんです」

 ――いま、出資されている組合員は何人くらいいるのですか?

「300人ちょっとです」

 ――組合員が増えても、たった7人の理事で業務をこなしているのですか?

「不思議だけど、特に困らないです(笑)。というのは、未来バンクの理事会のメンバーはひとりひとりが優秀なんです」
 
 ――これ以上大きくなってもこなしていけると?

「大きくなったら、そのうちに専従者をひとりくらいつけなくちゃならないだろうな。ただ、なんせ人件費は膨大ですし、うちは金利3%ですから、1億で300万にしかならないわけです。それで考えていくとわかるように、10億くらいのレベルにならないと人件費は出せない。だから、それまでは専従者なしでいくしかないだろう、と。しかも、我々未来バンクの考え方は、大きくなることを希望していないんですよ」

同じようなものが地方にたくさんできてほしいと思っている

 「何が日本の金融の問題なのかと考えると、金融の中央集権だと思っています。つまり、どこで郵便貯金に預金しようと、地方の人が都市銀に預金しようと、その使い道はすべて東京で決められる。何に融資されるのかわからないし、その責任の所在もわからない。我々は、それぞれの地域が責任を持って自分たちのお金を管理するというのがもっとも望ましいと思っていますので、未来バンクは大きくなるのではなく、それぞれの地域に返していきたいと思っています。自分のお金は自分で管理する。自分たちの貯金は自分たちで守りなさい、と。こういう形で、それぞれの地域への分権化が進んでいってほしいんですね」

 なるほど。独自のテーマで立ち上げてもしいし、ノウハウはいつでもお貸しするということでした。実際、ドメスティック・バイオレンス(DV、家庭内暴力)をテーマにした大阪の女性団体が、未来バンクの手法を参考にするために見学に来たそうです。

「で、我々としては、その一番最初の部分を、現実にやれるかどうか試しにやっている感じなんです」

 ――じゃあ、理想的には、全国各地で、同じ形、もしくは似たような形のものがたくさんできてほしいと。

「そうです」

 ――充分お手本になりますよね。先住者のいないことですから。

「ただ実際に、他でもやろうかという話が持ちあがったときには、やはり法律や金融の知識、会計処理能力のあるメンバーがいるかどうかがネックになります。そして困ったことに、ものすごく能力の高い人は東京に出ていってしまうことが多いので、地方には残りにくいという実情もあります。だから、地方に作るのがいちばん望ましいのに、地方にはなかなかできないというジレンマがあります」

これからの金融・指針

 イーバンクという銀行をご存知でしょうか。

 若い感性を生かしたネットベンチャーで、インターネット上で発生する決済専業の銀行です。特徴としては、今までネットでショッピングをしたり、オークションで落札した商品の代金を支払う際にかかっていた振込手数料がかかりません。というのは、イーバンクでは融資や運用を一切行わず、ネットショッピングの業者側から受け取る手数料で経営しているからです。

 銀行といえば決済業務と融資がくっついているものだという認識がありましたが、仕事の内容が多様化した現在、「融資の対象にしていいかどうか」を見極めることが非常に困難になっています。

 バブル経済が生じた原因の一端はそこにあると思います。同じような問題意識を持つ未来バンクの場合は、「自分たちのスキルで選べるジャンル(環境・福祉・市民事業)」に絞って融資をすることにしました。それは、グループの中に金融や環境問題について専門的にわかる人がいたこと、また、専門家(スペシャリスト)イコール「斬新な発想を持った起業の将来性がわかる人」とは限らないので、おそらく人を見る目に長けた人、総合的な判断力で未来を展望できる人がいたからこそ可能だったのだろうと思います。

 イーバンクの場合は、「融資」を一切行わない決済専業、店舗を持たないこれまた異例の銀行としてスタートしました。このスタイルはもしかして、今後の金融の主流になるかもしれません。

 そして、「融資」の在り方を突き詰めて考える企業が増えていくことを望みます。私は金融には素人ですが、多様化する仕事を銀行が官僚的に支えていくのは、もう難しいとは感じます。

 未来バンクやイーバンクの方針を参考にして、起業の資金繰りを考えていくのもいいかもしれませんね。未来バンクの母体である市民活動というものは、実は私自身、肌に合わないものなのですが、「自分たちの思う未来は、自分たちで作ってみせる」という気概は素晴らしいものだと思いました。強く願い、小さくても形にしてみることがまず大事なのだ、とも。



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